風が変わった。
(続き)
風が変わると思い出す少女がいる。
学業極めて優秀。生徒会副会長。
コンタクトレンズではなくて眼鏡。
陸上競技部だったかな。…
調った顔立ちの、凛とした表情の少女だった。しかし、写真は苦手で写りたがらなかった。
あるとき気がついて、名前の由来を尋ねてみた。思ったとおりで、
「あの歌が代わりに百人一首に入っていたら、誰にも札を取らせない。『わたしの歌』だから」と笑った。
漢字一字を当てるなら、明、あるいは清。しかし、苗字と合わせると男の名前のように見えてしまう。漢字の名前に憧れるとも聞いたが、和歌に因んだ名前なら、ひらがなの方が相応しい。
市費でひと夏、交換留学生として派遣された。
彼の地で、名前の由来となった古今和歌集の歌を流暢な英語で説明すると、歓迎夕食会列席の地元市長等、お歴々の表情が変わり、すぐに名前を憶えてもらったという。
彼女は、今はどうしているのだろう。
家庭事情は意外に複雑であったらしく、高校入学と同時に苗字が変わったのを覚えている。