撮影の小道具として赤いパッケージのお菓子を用意しようと考えた。
(続き)
小さくてレトロなもの。真っ先に浮かんだのはサイコロキャラメル。しかし、全国規模での販売が終了している。コンビニエンス・ストアの棚を何度も眺めて、代わりのものを二種類購入した。その際、この美しい人が、何も食べられない体調であることを知った。
その体の具合を聞きながらシャッターを押している。あまりにも酷い冷血な所業だが、私にできることは何もない。強いて挙げるなら、独り言を呟やける「壁」になるぐらい。ある程度の相槌や頷きを入れることができるからコンクリートの壁よりは幾らかマシと言えるのか…。
娘が同じ年頃だった時分を思い出す。今日のような話相手をしたことがない。父親に何か言っても仕方がないと思っていたのだろうか。生き辛さを抱えたまま自立していった。
40年近く前、娘が初めて笑った声が甦る。
赤ん坊だから、泣いているか、寝ているかだけの存在。そう思っていたから、朝、出勤前に、玩具を触って笑った声が心に響いた。この子は、こんな声で笑うのか。
いつまでも笑っていますように。
そう思いながら家を出た。初めて耳にした娘の笑い声一つで、その日一日が幸せだった。
無論、成長するにつれ笑いも涙もある。良いときばかりではない。辛さは最終的に自分で乗り越えていかなければならないのも事実だろう。いつまでも笑って過ごせるように_そう願うのは親馬鹿の類でしかない。
しかし、そうであったとしても、娘が何か呟ける壁のような存在でいたかった。
小さな赤い菓子包。 皆それぞれに食べた思い出があって、それが今でも店先にあるのは、考えていた以上に素晴らしいことだと思った。
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