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Small flowers by the roadside (_itokanasikimonotachi_)

ハレのちアメの白い一日 -ニ-

あかない本

(続き)

Yevhen Lokhmatov - Free Background Music
Piano Cinematic Corporate 
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一緒に写っている本はレンタルスペース備え付けの木製オブジェ。形はハードカバーの洋書だが、開いて中を見ることは叶わない。それでも何枚もの紙が束ねられた本の厚みが再現されている。エイジング処理の塗装を或るテーマパークで行なったというこの人は、本の天地に当る部分の塗り分けに目を輝かせていた。

 

本はオブジェではないという人は多い。
批判の多くは本好きの読書家のものだから反論の余地はない。有名な建築家設計の図書館や書店の評判が悪いのを思い出す。ガラス張りでは、直射日光で本が退色する。見上げるばかりの壁一面の本棚など、上の棚にある本はどうやって取るのか。地震のことは考えないのか。本は手に取って読むものであり、飾りではない。
全て、そのとおりなのだが、そんな正論を苦々しく聞き流す人たちもいるだろう。
天に向かって聳えたつ図書館_というイメージを抱いたのは無類の読書家ではなかったかな。その塔の名前を冠した叢書さえ編まれた。
手の届かない遥か高みの本を目にして、一冊の本を読んでみようと思う者もいるだろう。退色した表紙から嘗ての鮮やかな色彩を夢想する読み手も現れるに違いない。小さな町の書店が消え、虚飾に満ちた「本の館」が生まれたとしても、何が幸いするか誰にも分からないのだ。

 

この開かない本には VOYAGE と SIAM という文字が見える。
間にある2文字は to なのだろうか。SIAM が地名であるなら_と考え始めると、頭の中には勝手な風景が浮かんでは消えた。

 

美しい人は本のオブジェを携え、窓辺に座り、表情を様々に変化させた。
寂しげな表情や、心が抜け落ちてしまったような空白の瞬間に挟まって、笑顔が輝く。まるで、雲間から太陽が見え隠れするかのようだった。