夏の匂いが、した。
(続き)
Clara.van.Gogh | Composer
Transformation - Red
https://soundcloud.com/clara-van-gogh/clara-van-gogh-2
眩しそうな表情。格子の向こうが、夏でも別に構わない。
京町屋での夏の記憶がないから、妄想は端から勝手なものになる。
ふと、プールで泳いだ最後は、いつのことだったか考え始める。
娘と一緒に泳いだ最後は室内プールだった。その前は小学校の高学年。空に真っ白な入道雲があったように記憶するから8月だと考える。田舎道を歩いて山の中腹にあるプールへ行った。大人用の50メートルプールの真ん中辺り、娘の身長よりも深かったが、選手コースの直前まで進級していたから、彼女は楽々と泳いでいた。付いて行けなくなった私は、プールサイドで缶ビールを飲むか、娘の泳ぐ様子を目で追いかけるしかなかった。
もう泳ぎたいとは思わないのに、陽射しの下のプールの水の匂いを思い出す。今は40に近い娘も、もう泳ぐことはないのだろう。
公営のプールが、どんどん消えていくようだ。1年の内、稼働している期間が限られている施設を維持管理するのは、難しい世の中なのだろう。
消えていくものの思い出は、目覚める直前の夢に似ている。すぐ傍、手が届きそうなのに、実体を伴わない。それをどこかで理解しているから、消えていくのをただ見送ってしまう。
だから。
格子窓の向こうに、青い空とマルチカラーの水着、冷たくて生ぬるいプールの水があっても、可怪しくはない。