灯光下也有黑夜
(続き)
chad lawson
The Waning Moon
https://soundcloud.com/chad-lawson/the-waning-moon-chad-lawson
差し色として、赤い棒リボンを着けてもらった。
大きな姿見の前で結んでいる様子、ダウンライトに照らし出された姿を、遠くから暫く眺めていた。心が騒ぐのを覚えて、急遽、その様子を撮らせてもらった。
人物撮影の教科書があるなら、光の使い方の良くない例_として挙がりそうだ。何枚か撮るごとに確認してもらうのが常だから、一応、許容範囲に収まっているのかもしれないが。
瞳に輝きを入れる工夫さえしないのか_自問した直ぐ後から、リングライトの輝きは自分には縁がない_と首を振る。瞳の中に丸い光がある人など、実際に見たことがない。どんなに美しいポートレートになったとしても、人を撮ってみたい気分から離れてしまう。
毎朝のジョギング。夜明けが早くなってきたから、空の色は、いつの間にか、澄み切った深い青に変わっている。誰もいない道の両側では、LEDの街灯が冷たい光を放っている。夜が、そこだけ残っている。
遥か遠くの灯りの下で俯く美しい人。走りながら思い描く幻に過ぎないのだが、街路樹の影や、点滅信号機の光の所為で、本当に誰かがいるように見えるときがある。
しかし、未明の街角に佇む美しい人など、ありえない。私を待っている人が、この世に存在しないように。
遠くの灯りを目指して、それでも走り続けるしかない。