(続き)
昔々、
手鏡を覗き込みながら家の中を歩き回るのが好きだった。
部屋と部屋の間には普段は存在しない段差が出現するため
恐る恐る足を持ち上げてはいても
板張りの床から漆喰塗りの真っ白な床の部屋へ
楽々、無事に 移動を終えている。
お気に入りは祖母の家にあった応接間と称する小綺麗な部屋。
立体裁断用トルソーや書類入れ、絨毯等は皆、遥か天井に張り付いていて
目の前には茸のような灯りが生えている。
天地逆さまの鏡の中には私しかいないのだが、
どこかの隅には
私の遊び相手になってくれる小さな誰かが隠れていて
私が見つけるまでかくれんぼしている_
あちらこちらを眺めながらそんな事を考えていた。
今は無い古い家の
懐かしい記憶。