(続き)
火星の夢を見る
赤い光に満ちた世界
しかし空と海は原色の青で
波の音や風の音に混じって
電車の金属音が遠く響く
高架線路を走っていくのは緑の電車
ここが何故火星なのか
夢の中にいても訝しく思うのだが
私自身は時に魚であり
青い空に浮かぶ黒い鳥であったりもする
ただ何であったとしても見つめているのは茫漠の風景
誰もいない世界だから
全ては別の世界のどこかの記憶に繋がっているようだが
美しい人の面影は一際朧の影の中にあって
それでも虫眼鏡で覗き込んだように
白いパフスリーブや
光り輝く二の腕の産毛が甦る
屈託に満ちた口許が微かに歪んだように見えたのは
あれは微笑みだったのだろうか
高架の急カーブに差し掛かって鳴り響く
電車の制動装置の音がして
今日の火星の夢は終わった