File005:中庭拱門回廊
(続き)
Yevhen Lokhmatov
Meditative Calm Free Background Music
https://soundcloud.com/yevhen-lokhmatov/meditative-calm-free-background-music-yoga-practice-by-yevhen-lokhmatov
中庭紅葉の回と同じ場所での撮影。
撮影中、この「中庭」が嘗てのどこであるのか、そんなことばかり考えていた。
中庭を取り囲む建物は新学生会館。
幾つか並んでいた学生寮がなくなっているから、ここがそうなのか。
4年生の終わり頃、ゼミ生の一人に誘われて、一度だけ、啓明寮の風呂に入れてもらったことがある。
未だ4時を過ぎたあたり。誰も入った形跡はなかったのだが、浴槽には、緑色の蛙の玩具が浮かんでいた。小さなポンプを握ると、後ろ脚が伸びて泳ぐ仕掛け。玩具屋というよりも駄菓子屋で売っていたような懐かしいシロモノ。
しょうもないことをするやつが多いんだ。
私が脚を動かして遊んでいるのを見ながら、彼は小さな声で言った。
風呂から上がると、コルトレーンでも聴こうと言って、部屋へ招待された。定員4人の部屋だったが、4年生だから一人で使っていると言う。掛けてくれたコルトレーンは至上の愛。レコードの途中で、卒業が半年遅れることになったのを教えてくれた。履修ミスがあったのに気づいていなかったとのこと。自分は上ヶ原の fool on the hill だと笑っていた。
その後、彼がどうしたのか。詳しいことは何一つ知らない。中原中也を卒論のテーマとしていて、中間発表でも取り上げていたから、行く時代かがありまして/茶色い戦争ありましたのフレーズと共に彼のことを思い出す。……
アーチが続く回廊はタイムトンネルのようだ。合わせ鏡の鏡像のような繰り返しの向こうには、別の時間がある。古いテレビドラマ同様、私のタイムトンネルも、未来を教えてはくれない。
完成したスライドのあちらこちらで、この美しい人の小学校、中学校、高校での様子が見える気がした。何故そう感じたのかは分からないのだが。